▽君色に染められて


 カラン、コロン。

 用事でキキョウへ訪れたツクシは、帰りがてら小さな商店に足を運んだ。
 店内には様々な和風雑貨が陳列されている。そんな中、和菓子売り場の窓辺に何色もの金平糖が並んでいるのに気がついたツクシは、ゆっくりと綺麗な水色の金平糖を手に取った。

(ああ…この色は……)

 いつからだろう。水色や青色のものを見ると、ふと澄み渡る空を連想させる水色の羽織りが似合う彼のことを思い出す。
 それもあるのか、思い返せば最近、自身の研究机に転がっている雑貨や文房具に水色のものが増えてきたような気がした。余り意識はしていなかったが…。

「あら、水色が好きなの?」
「えっ」

 店内を回っている途中、ツクシは会計レジに座っていた店員に笑顔で問いかけられた。と同時に…

「あ…」

 ツクシは自分の手元を見返した途端に顔を赤くした。無意識のうちにまた、青や水色のものばかりを両手に抱えていたものだから。そんなつもりじゃなかったのにと一瞬恥ずかしがるツクシだったが、店員の問いかけに、頬を染めながら答えた。

「はい。水色、好きなんです…」

 そう言い照れ笑いを見せたツクシは、再度手に持っている金平糖を見返した。
 やはりあの人を思い出す。この綺麗な色が似合う彼。格好良くて、男らしくて。そして、とても優しい。
 この色を手に取ってしまうのは、きっと彼を見たときのように安心するからだろうとツクシはしみじみ思いを馳せるのだった。

 カラン、コロン。
 と、そこへもうひとり客が店内に入店してきたが、それは全く予期していない人物だった。

「すいません、今年もまた和菓子のお礼を…て。なんだ奇遇だなツクシがいるなんて」
「ハヤト君…!?」

 店内に入ってきたのはハヤトだった。
 思いもよらない人物との遭遇に眼を大きく見開くツクシを横に、ハヤトは先に店員に小包を渡した。

「ここの商店とは幼少の頃から関わりがあるんだよ。毎年高価な和菓子を頂くから、そのお返しに来たところだ」
「そ、そうだったんだ」
「?」

 変にもじもじとしているツクシに首を傾げるハヤト。その時、ハヤトはツクシが抱えている品に目を向けた。綺麗な水色の雑貨と金平糖がキラキラと光っていた。

(あ……)

 商品を見たハヤトはふと少し前のことを思い出した。虫ポケモンや自然が好きな小さな彼、持ち物は大体虫ポケモンをモチーフにした緑色のものや木製のもので合わせていたのだが、その日会った際ツクシは珍しく水色の虫眼鏡を持ち歩いていた。そして、問うと彼はほんのり頬を染め言ったのだ。
 “ハヤト君を思い出して買ってしまった”のだと。

 あの日のことを思い出したハヤトは、今目の前に居るツクシを見てドキッと胸を弾ませた。無論、ツクシもその日のことを忘れてはない。なにかを察したハヤトの表情を見たツクシは慌てて言い訳を付けた。

「あ その、ほらっ!今夏だもの!夏らしくて良いでしょ?ははは…」

 ツクシは笑顔で誤魔化すが、顔が猛烈に真っ赤な上に不自然にハヤトと目を合わせないその姿を見て、ハヤトもなにも察しないわけがない。
 ああ、可愛いな本当に…。ハヤトはニヤケ顔を抑え、そんな可愛いツクシにズイッと自身の顔を近づけ、彼の顔を覗いた。

「…ああそうだな、良いよな。夏らしくて」
「っ…!」

 そう言いながら、優しい表情で顔を覗くハヤトに心臓が早まるツクシ。
 う…うん…。と、ハヤトの問いかけに弱々しく答えるが、そんな返事はもう通用しないだろう。観念したと言うように更に顔を赤らめるツクシに、ハヤトは可愛い彼の頭に手を乗せクシャッとひと撫でした。

(ああ…僕、また君の色に染まってく…)

 ツクシはハヤトに触れられながら、心の中で小さく呟いた。